最近は、部下の接し方で「褒めて伸ばす」という手法が流行っています。
実際、「褒めて、部下のやる気を引き出しましょう」「いまの世代は褒めないとついてきません」と言われることが多く、慌てて実践している人も多いんじゃないでしょうか?
でも、実際、その効果はどうでしょうか?
私のまわりを見ても、
など、ネガティブな意見も少なくありません。
褒めても伸びない原因
では、一体なぜ褒めているのに、部下はやる気を出してくれないのか? 部下の仕事の成果は上がらないのか?
聞いてはいるけど、本当に褒められていると実感できていないからです。
なぜ、そうなるのかと言えば、そもそもあなたが本気で思っていないのにテクニック的に褒めているケースが多いからです。
本当にその部下の仕事ぶりや対応を見て、「すごい!」と思って褒めたのであれば、問題ありません。
しかし、本当はそこまですごいと思っていないのに、「褒めて伸ばしましょう」的な安易なテクニックに走って、褒めてしまうと逆効果です。
心底思っていない褒め言葉は、相手にも伝わります。
相手に「この人、本当はそう思っていないな」と思われたら、当然部下の心にも響かないわけです。
心底思ったときに言う褒め言葉だから、部下も信じることができ、仕事にもやる気を出してくれるのであって、お世辞や上辺の賛辞でやる気を出すのは無理な話です。
本当に上辺の賛辞や褒めは効果がないの?
いや、そうは言っても、
と思うかもしれません。
たしかにそういった研究結果もあるようです。
詳細は忘れてしまったのですが、相手から「キレイだね」「やさしいね」「気が利くね」など褒められた際、お世辞と分かっていても、言われた被験者はお世辞を言った人に対して、印象がよくなるという実験がありました。
つまり、建前で褒められたり、お世辞を言われたりしても、言った人に対して、好感度が上がるわけです。
ですので、一見心底思っていることでなくても、部下に褒め言葉や賛辞を言った方がいいと思うかもしれません。
しかし、これは間違いです。
なぜかというと、上司と部下の場合は『関係性』が違うからです。
例として、いくつかの関係性でお世辞をいわれたケースを挙げてみます。
友達からお世辞を言われた場合
まず友達同士という関係性。
友達から、お世辞を言われたときのことを考えてください。
とか、
などと言われたとします。
その友達が、本当にそう思ってあなたに言っていたとしら、もちろんうれしく感じますよね?
また、仮にお世辞だった場合はどう感じるでしょうか?
そんなに嫌な気はしないんじゃないでしょうか?
だって、わざわざお世辞を言ってくるということは、あなたのことが好きで言っているわけですから、その気持ちがうれしいと感じます。
お店の店員からお世辞を言われた場合
次にお店に行って、店員とお客という関係性の場合。
もし、洋服屋で服を見ているときに、上記の「その服、似合っていますね」という台詞をそのショップ店員に言われたらどうでしょうか?
うれしいかと言われたら、かなり微妙ですよね?
なぜかといえば、台詞を言った人から「この服を買ってもらいたい」という目的が見え隠れするからです。
つまり、友達など利害関係のない相手から言われた場合は、たとえ、お世辞と分かっても、言われた方は好意を持っているというプラス面が伝わります。
しかし、洋服屋の店員のように利害関係のある相手から言われた場合、お世辞と分かれば、それは自分にとって「洋服を買わされる」というマイナス面が伝わります。
つまり、褒める人と褒められる人の関係性によって、お世辞や社交辞令は大きく効果が変わってしまうということです。
上司からお世辞を言われた場合
そうなると、上司と部下の場合も同じ考え方ができます。
上司の褒め言葉がお世辞や心底思っていないことだと感じられると、部下は「仕事をさせるために本心でないことを言っている」と感じてしまうわけです。
こうなると、褒め言葉が逆効果になります。
と感じてしまいます。
結果的に、仕事へのモチベーションは下がり、より生産性が落ちてしまうのです。
特に部下に対して、仕事のことを褒めるというのは、「あなたは仕事ができる人」というラベリングをする行為です。
言われた部下からすると、
という強制力が働きます。
そのことがプレッシャーとなり、むしろ嫌なことを言われている気分にすらなる人もいます。
しかも、「褒める行為」は表向きはよいことですから、部下はそれに抵抗できません。
叱られたり、注意されたりすれば、言い訳を言ったり、反論したりできますが、褒められた場合はできないですよね?
また、叱るときと違って、まわりの人からも「言いすぎですよ」「厳しいすぎですよ」と言った非難が出ないので、上司にとってはとても便利な手法です。
それだけに部下からすると、安易な褒め言葉は悪魔の言葉になるので、使い方は要注意です。
よっぽど嘘の上手い人ならともかく、お世辞か本音かという、こういった微妙なニュアンスにすぐバレます。表面上のテクニックではすぐに化けの皮が剥がれてしまいます。
だからこそ、褒め言葉を言うときは、本当に思ったときだけにするべきなのです。
では、どうやって褒めるといいの?
しかし、「『心底思ったときだけ』と言われると、褒める機会なんて、全然ない」と思うかしもしれません。
一体どうしたら、いいのか?
おすすめなのは、あなたの「感受性」を高めることです。
感受性が高くなれば、自然と部下が同じような業務をしても、心から部下の業務に感動することができます。
そのため、自然に褒めることができます。
感受性を高めるために、ぜひ実践していただきたいのがこの2つです。
- 自分の感情と向き合う
- 自分が若かったときのことを思い出す
自分の感情と向き合う
たまにでいいので、自分の感情と向き合う時間を作ってください。
たとえば、何となくモヤモヤした感情を抱えているときなどに、ラクな姿勢で目をつぶり、なぜ「モヤモした気持ちになっているのか?」自分の感情と向き合ってみてください。大人になると、子どもと違い、日頃から感情を表に出さないようになります。そのせいで、どんどん自分の感情に鈍感になってしまいます。
そのため、ときおり自分の感情と向き合って、自分の本心と意識的に向き合うことが大事です。これをすることにより、「自分って、こんなことで怒ったり、喜んだりするんだ」と意識できるようになります。
どういうことで、自分の感情が揺れ動くのか分かるので、スッキリしますし、結果的に感受性も高まります。
自分が若かったときのことを思い出す
あなたが若かったときのこと、その部下と同じ年だった頃のこどう思い出してください。
あなたのその部下と同じようにいろいろな失敗や経験をしたのではないですか? あなたも初めから今のようにバリバリ仕事ができたわけではないと思います。
もちろん、若かった時でも、その部下よりもうまくできた業務・作業はあるでしょう。しかし、逆に部下の方が得意な業務もあるはずです。
そう考えると、その部下がその年でその業務をやっていることが本当にすごいことだ実感しやすくなります。「自分も当時はあんなに苦労していやった作業だもんな。よくよく考えたら、ここまでできるだけでも十分すごいじゃないか!」 そう思えれば、褒め言葉も自然と熱いものになり、部下にも響きます。
特に年をとると、自分の心に鈍感になりますので、日頃から意識しておきましょう。
(すでに経験していることが多いため感動しにくい)
その気持ちに気づければ、心の底から相手を褒められることができます。
心の底から褒めているから、相手の心にも届きます。